August 29, 2004

going for the one

going.html
Electra/Rhino R2 73793

[Original Trucks]
1.Going for the One
2.Turn of the Century
3.Parallels
4.Wonderous Stories
5.Awaken

[Bonus Trucks]
6.Montreux's Theme [*]
7.Vevey (Revisited) [*]
8.Amazing Grace [*]
9.Going for the One [Rehearsal][*]
10.Parallels [Rehearsal][*]
11.Turn of the Century [Rehearsal][*]
12.Eastern Numbers [Early Version of "Awaken"] [*]

<通説>
イギリスの高すぎる税金対策のため、1976年10月よりスイスのMontreuxで長期間のレコーディングを計画するも、コミュニケーションギャップや音楽的意見の衝突からリハーサル途中の1976年11月にはPatrick Morazが脱退してしまう。
残されたメンバはしばし途方に暮れるがマネージャBryan Laneに相談してRick Wakemanを呼び戻す。1977年1月13日付の「Rolling Stone」紙にはすでにRick再加入の速報が出ているので、キーボーディスト不在の期間はおおむね1カ月程度だったようである。
(「イエス 神々の響宴」伊藤政則著 には、1976年のクリスマスをRickと過ごした旨の記事もあるが、こちらの文献ではPatrickが脱退したのは1976年のクリスマス直後となっていて、当時のわが国の情報流通状況を併せて考えると他の資料に比して多少信憑性が劣ることは否めない)

<推測>
このBonus TrucksのテイクはおそらくPatrick在籍時-キーボーディスト不在の時期-Rick再加入直後 のいずれかの期間ではないかと推測する。理由は後述するが、クレジット上キーボーディストがいてもそれらしき音がまるで聴こえない(6.Montreux's Theme, 11.Turn of the Centuryなど)曲があることが、録音当時のキーボーディストの立場の微妙さ もしくは 恣意的なミックスダウン(およびそうせざるを得ない状況)を暗に示しているようでもある。

<各曲解説、てゆうかもはや妄想>
12.Eastern Numbers [Early Version of "Awaken"] [*]
おそらくこの曲が未発表テイクの中では一番最初に録音されたのではなかろうか。Alan WhiteのドラムがRelayer期の元気そのままであること、キーボード(メロトロン)の入り方がTo Be Overの中間部の雰囲気に似ていること、Chris Squireのベースが少し前に発表されたソロアルバムFish Out Of Water同様Maestro Brassmasterを踏みっぱなしであること、Jonが1975年Queen's ParkのThe Gates Of Deliriumとまるで変わらないベヨンベヨンな音のギター(たぶんあのLes Paul Jr.)を弾きまくっていること(Olias Of Sunhillowで楽器を弾く喜びを覚えてしまったか?)、Steveの使用ギターがTelecasterらしいことが推測の理由である。少なくともPatrickの中にあったAwakenのイメージは、よりこのテイクに近いのではないかと思う。

この後Eastern NumberがAwakenに飛翔するためには、ChrisがBrassmasterの多用をやめてWalのTriple-neck Bassへ、Jonがお世辞にも上手いとはいえないギターからハープへ、そしていささか古めかしい音色のメロトロンに代わってパイプオルガンへとそれぞれが楽器を持ち替えることが(結果的にではあるが)必須だったのではなかろうか。機材によって音楽が自動的に作られるわけでもないが、ことにYesの場合、使用した機材によりその時代のそのアルバムの音が形成されている事実が、これらアウトテイクスにより浮かび上がってくるようである。

11.Turn of the Century [Rehearsal][*]
時間軸的にはおそらく上のEastern Numberの次に位置するテイクと思われる。Alanがこの曲のコードのほとんどを書いたとインタビュー(1994, yesstories)で答えているが、キーボーディストの存在が不安定であった当時の状況を端的に示しているようで興味深い。この時点ではまだアコギではなくスティールギターがフィーチャーされている。中間部でのベースのフレーズがFish Out Of WaterのSilently Fallingそのままだったりするが、この部分はさすがにアルバムではごっそり別の展開に差し替えられている。ちなみにこのテイクでもChrisはBrassmasterをブイブイ言わせており、またJonは相変わらずギターをベヨンベヨン言わせている。

6.Montreux's Theme [*]
Tales From Topographic Oceansに先祖返りしたような作風が可笑しい。メンバ同じで機材も同じじゃあしょうがない気はするけど。Alanのドラミングが鋭いところがかろうじてRelayerっぽい。この曲がボツったのは、やはり音像がどうしてもTales...から脱却できなかったからではないかと思うことしきりである。

9.Going for the One [Rehearsal][*]
上の各曲に比べてAlanのドラムがとてもリラックスしている。この時点ではアルバムの中に1曲ぐらいこういう曲もあってもいいかも、ぐらいの感触だが、この後の変節(というか変拍子でも極端な後ノリで突き進むAlan節の確立)を考えるとひとつのマスターピースとも言えるかも。クレジットからキーボーディスト不在の時期のセッションだったのではないか、という邪推もすこし・・・。
Steveのギターがまだスティールではないが、後半のフレーズはこの時点ですでにかなりスタジオテイクに近づいている。ここであらかた完成させたフレーズを頑張ってスチールギターでセルフコピーしたようでなんか涙ぐましい。
何故かラフミックスなのにドラムのエフェクトだけが微妙に豪華な気がするのは気のせいか?ライブな部屋で録ったのかなあ??

10.Parallels [Rehearsal][*]
Fish Out Of Waterのリハーサルで録音まで行ったがアルバムには収録しなかった、とChrisがインタビュー(1995, yesstories)で答えている。きっとChrisの忠実な舎弟Alanはそのテイクを聞かされて「この通りにやれ」と言われたに違いない、と思えるぐらいドラムのオカズからノリからBill Brufordのコピーというか物真似(曲の流れをスティックさばきがことごとく遮断するようなUK-Bruford時代のテイストに近いような気がする)。これが微妙に以降のAlanの士気に影響を与えているような気がする。というのは、上のEastern NumberやMontreux's Themeのような鋭いオカズというか手数の多さがこれ以降影を潜めるからである。ともあれここまで来たらFish Out Of Waterのアウトテイクスも是非発表して欲しいものだ、と思うのはアーティストの気持ちをまるで無視したファンの暴走心理か。

この時点ではキーボードがなんとも弱く、パイプオルガンが入ってやっと曲になったようなことをどっかでメンバが言っていたような気がしたが(すいません詳細は忘れました)その気持ちは非常によくわかる。逆にこの程度の貢献では当時の他メンバのインタビューでのRick再加入への歓迎ぶりが理解できない。ちなみにここでもまだChrisはBrassmasterを多少控えめながらブイブイ言わせており、Jonもギターのバッキングをベヨンベヨン言わせている。Steveのギターはソロのスティール以外ほとんど聴こえない。yesyearsの映像と同時期のテイクかも。

7.Vevey (Revisited) [*]
JonがRickを使ってYesでOlias Of Sunhillowの延長を模索したような曲。そういえばBOXのyesyearsでは録音が1978年になっていたはずで、それゆえJon言うところのRickとふたりでリハーサルを繰り返した(どっかで言っていた記憶があるんだけどこれも詳細不明)頃のマテリアルからの収録なのかな、と思っていたのですが・・・。
この流れがTormatoのMadrigalを経て1979年のYes分裂につながる、という意味では重要かもしれないが音楽的にはどうでしょう。

8.Amazing Grace [*]
これぞBrassmasterの真骨頂。実際ChrisはYesのアルバムではBrassmasterを(それとわかるような形では)あまり使ってないと思う(逆にFish Out Of Waterではほとんどの曲で踏んでいる)。せいぜいRelayerのThe Gates Of Delirium, Sound Chaserぐらいでしょうか(それ以前のアルバムからはBrassmasterの音色を確認できないように思う)。ParallelsとかAwakenあたりは微妙に重ねてるかも知れないけど。その割にChrisと言えばBrassmasterと言われるのはどうしてなんだろう?Maestroの営業戦略か??

余談ですが、Brassmasterはただのブースト音とFuzzの音をブレンドできる構造になっているので、特にブースト風味を強めにセッティングした場合は、一聴してそれとわかるような出音にはならないこともあります。またFuzzの音色についても、それこそAmaging Graceのようにオクターブ上が極端に強調されたヒステリックなセッティングから、上の10.Parallels [Rehearsal]テイクのように、控えめに歪んだなメロウなセッティングまで設定できる(てゆうか大きく分けるとそのいずれかのセッティングしかない!)ようになっています。ブレンドの機能については、特にスタジオ録音ではあまり意味がないかも知れませんが。

<全体を通して>
Yesの場合、メンバ全員がやる気がありすぎるとエゴの衝突が多発してリハーサルの過程で消尽しきってしまい、結果的には凡庸な出来のアルバムができるようである。この時期のYesは各人それぞれ自分のソロ活動の結果をバンドにフィードバックしようとしていたようで、十分に混沌を生みそうな状況を孕んでいたのだが、Jonがギターを弾くのをやめてより繊細な音色のするハープに乗り換え、ChrisがBrassmasterでブイブイ言わせるのをやめてベース本来の働きを取り戻し、SteveがRickとのすみわけを意識した構成面での配慮を行い、またRickが曲に干渉し過ぎることなく自分の持ち場に集中して後乗せ的に音をぶち込んだ結果、各人のエゴを直接対峙させることなくそれぞれのカラーが存分に活かされた稀有なアルバムが出来あがったのだと思う。テクニック指向のAlanをもう少し見たかった、というのは贅沢な希望かな。

この構図は、船頭多くして船がYes Torに登ってしまったTormato、JonとRickが抜けることで求心力の高いアルバムとなったDrama、当初Jonが音作りに参加しなかったゆえにTrevor Rabinの能力がスポイルされることなく発揮できた90125、JonとTrevorが衝突しまくって迷走したBig Generator、Jonの提示するモチーフを他のメンバが解釈するという作曲方法により方向性を統一したABWH、ABWH内での意見がまるで集約できない上にさらに90125Yesとの合体によりバンド自体が骨抜きになってしまったUnion、TrevorがバンドのキーマンはJonだということを悟り徹底的に協調して作業を行うことで作り上げた執念のアルバムTalk、楽曲を煮詰めることを放棄したKeys To Ascention(1,2)、Steveの元気を奪いながらBilly Sharwoodがコンパクトにまとめることに成功したOpen Your Eyes、みんな元気がないがSteveがちょっと復活したようなLadder、4人+オーケストラとすることで求心力を高めつつエゴの衝突を避けることに成功したMagnification・・・と今も連綿と続いている。これらアルバム制作の過程を追うに、何となく彼らに会心作を作らせるための方程式がほの見えるような気がするのですが、いかがでしょうか。

投稿者 fff : 11:30 PM | コメント (0)