単電源から±電源を生成する方法

単電源から±電源を生成するICとして、チャージポンプICと呼ばれる一連のICが
あります。これらチャージポンプICのうち、9V以上で使用可能な型番として、
ブーストモードなしのICL7660/7662,JRC7660等の7660系と、
ブーストモードありのLTC1044/1044A/1144,MAX1044等の1044系の2系統が
広く知られております。

ちなみにICL7662(絶対最大定格22V)はICL7660の高耐圧版、
LTC1044A(絶対最大定格13V),LTC1144(絶対最大定格18V(瞬間値20V))は
LTC1044の高耐圧版になります。

電圧をダウンレギュレーションするならまだしも、トランスなしで昇圧/±反転させるとは
どういうことでしょう? 説明のため、大雑把かつシンプルな図解をしてみます。

1044_1.gif<図1>

この切り替えのスピードをスイッチング周波数と言います。
スイッチでつなぎ替えられるコンデンサC1には、電源に接続されている間電荷が蓄えられるので、
スイッチング周波数が十分高い場合には、概ね下図のような感じになります。

1044_2.gif<図2>

よって、スイッチとコンデンサC1,C2の働きにより、単電源から±電源が生成されることになります。

次に、実際の±9V生成回路を図に示します。

1044.gif<図3>

1044/1044A/1144においては図中の赤い部分を結線してブーストモードとすることができます。
ブーストモード時にはスイッチング周波数が約6〜7倍になります。
(概ね30〜40kHz程度と言ったところでしょうか)

エフェクタ等音響機器の電源として使う場合、スイッチング周波数が人間の可聴帯域
(一般に20Hz〜20kHz)にかぶるとスイッチングノイズが電源から信号経路に漏れ出てしまいます。

ブーストモード採用によりスイッチング周波数を可聴帯域外に追いやることで、
この電源由来のピーノイズを聞こえなくすることができます。
また、周波数が上がることにより、電源インピーダンスも低減されます。
(ただし電源のリプルが消えるわけではない。)

スイッチング周波数については、とにかく可聴帯域外になる もしくは
電源インピーダンスが下がることが重要で、あまり正確さを求められない
用途が多いためか、結構個体によるばらつきはあるようです。
(余談ですが、スイッチング周波数を正確にコントロールしたい場合は、
外部のオシレータを使います)

他にこれらチャージポンプICを使った倍電圧へのコンバートも可能です。
(データシートにもそのものズバリの回路が載ってたりします)
ショットキーダイオードを使うと、ダイオードによる電圧降下が多少改善されます。


実装上の注意点としては、コンパクトエフェクタ用のアダプタを使用する場合には、
耐圧10Vの1044はそのままでは使えない、ということがあります。

エフェクタに使われる9V電源アダプタには、定電圧化されていないものもあります。
定電圧化されてないアダプタでは、無負荷状態では電圧が12V程度に達することも
あるようです。(手持ちのアダプタでも実測による確認済)

この状態で耐圧10VのICL7660/LTC1044を使うと過電圧で破壊されます。このような用途の場合は、ICL7662/LTC1144を使用しないといけません。
(LTC1044は耐圧が10Vで、少々オーバーぐらいでも故障する。アダプタによっては
絶対最大定格13VのLTC1044AでもOKかも)
自分の場合、楽器内蔵用には1044を、単体のエフェクタにはLTC1144を使うことにしています。


チャージポンプICの欠点として、回路の消費電流が増えると電圧降下が顕著に現れる点
(=電源インピーダンスが高い)があります。
(例えば、LTC1144のデータシート(下記リンク先参照)に消費電流と電圧降下の相関図が出ています)

リニアテクノロジのデータシートによると、電源インピーダンスは大雑把に言って
1/(fc/2)のオーダーとのことです。(f:スイッチング周波数,c:コンデンサの容量)
f:20kHz,c:10μFのときは10Ωになる計算となります。
ただスペック上では、例えばLTC1044ではf:10kHzの場合200Ω,f:10kHzの場合60Ω
となっており、あくまでも目安と考えた方がよさそうです。

この式からすると、コンデンサの容量を増やせばいくらでも電源インピーダンスを
減少させることができそうにも思えるのですが、正確にはこの辺の議論はかなり複雑で、
内部のCMOSスイッチ自身の抵抗やコンデンサのESR等もそれなりに効いてくる
(らしい)ので、一筋縄でいかないようです。
少なくとも、コンデンサのESRが周波数によって変化する点 および 特に
スイッチング周波数が高い場合、内部のCMOSスイッチのON抵抗が効いてくる点を
考慮する必要がありそうです。

上記程度の理由ですが、一応コンデンサはESRの低いOSコンを勧めておきます。
故障モードがショートなので(タンタルと同じ)、ちょっとやな感じですが。
容量が足りれば積層セラを使っても悪くないかもしれません。

また、内部のCMOSスイッチのON抵抗が電源インピーダンスに効いてくる場合には、
ICを2個並列に使用すれば単純に電源インピーダンスも1/2になるようです。
(これまたデータシートにそのものズバリの回路が載ってたりします)

<参考>メーカーおよびデータシートへのリンク
http://www.linear-tech.co.jp/
https://www.maximintegrated.com/jp.html

http://www.linear-tech.co.jp/product/LTC1144
http://www.linear-tech.co.jp/product/LTC1044
http://www.linear-tech.co.jp/product/LTC1044A
https://www.maximintegrated.com/jp/products/power/charge-pumps/MAX1044.html

投稿者 fff : May 5, 2004 01:43 PM
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