Fuzzface概論3(測定結果)

Fuzzface概論2(回路解析)における結論を改めて以下に整理しておく。

○以下の式により1段目のトランジスタのhFEの大小によってQ1が飽和したりQ2が飽和したりすることが判明した。
  VCB1≒27.2/(hFE1+3.06)
  Ie2≒0.0272/(hFE1+3.06)
○Iceoについて、少なくともQ1にはIceo<0.27mAの(同様にQ2にはIceo<0.92mAの)個体を使用しないと、負荷線上の領域がすべて遮断領域となって動作領域がなくなってしまう。ゲルマの場合20℃あたりでIceoが0.2mA程度あることは普通なので、特にQ1についてはゲルマTrのIceoの指数関数的温度特性も考慮するとそれなりに厳しい選別が必要となることがわかる。
○1段目トランジスタのhFEおよびIceoが外気温により大きく増減することが、ゲルマ版Fuzzfaceの本質的な不安定さの原因である。
○1段目に比して2段目のトランジスタのhFEおよびIceoは回路動作の面では大勢に影響を与えていない。

これら机上回路解析の結果が実際の回路動作にどの程度合っているかを実際の測定結果をもとに評価しようと思います。


まず、今後の実験で使うトランジスタの個々の特性を再度測定します。今回は周囲温度(缶表面の温度)を測定しておいて、実際の回路での測定をなるべく同じくらいの温度で実施するよう配慮するようにします。なお、後々の測定のためにそれぞれの個体にラベルをつけておきます。あと、比較対照のためBランクの個体(Sample16)も入れておきます(その他サンプルはすべてAランク)。


<図1:Iceo vs hFE (Temp: 18.0~18.7℃)>



<図2:Iceo vs 「真のhFE」 (Temp: 18.0~18.7℃)>



<概論2の図1:或るFuzzfaceの回路>(再録)

次に上記回路の中にA,B,C,Dで記した点のアースからの電位を測定し、実際のFuzzfaceの回路中でのVCB1, VCE1, VCE2を求めます。それらの値と上で測定したhFE, Iceoとの相関 および DC解析で求めた数式による算出値との比較をします。


<図3:VCB1 vs hFE1 (Q2:Sample27)>


<図4:VCB1 vs 「真のhFE1」 (Q2:Sample27)>

上記のようにQ2をSample27に固定した条件においては、Q1のVCBとhFE(および「真のhFE」)とは非常に高い負の相関を示しています(図3)。hFEと「真のhFE」とを比較すると、わずかに「真のhFE」との相関が高くなっています(図4)。



<図5:VCE1 vs hFE1 (Q2:Sample27)>



<図6:VCE1 vs 「真のhFE1」 (Q2:Sample27)>

VCB1と同様、Q1のVCEとhFE(および「真のhFE」)とは非常に高い負の相関を示しています(図5)。こちらもhFEと「真のhFE」とを比較すると、わずかに「真のhFE」との相関が高くなっています(図6)。また実測値と算出値とのずれについても、「真のhFE」基準の方がよりよく合っているように見えます。同一型番 かつ 同一ランクの個体の間で選別を行ったため、元々の個体同士の値のばらつきが小さく、明確に断言できるほどの差は生じていませんが、これらの結果より「真のhFE」を基準に選別を行った方がより安定した結果を得られそうな雰囲気は感じ取れます。

上記に引き続いて、もう少し温度が高い条件(~22℃)でも状況を見てみようと思います。温度が高くなるとhFEも漸増しますがIceoの方が指数関数的に大きくなるので、Iceoと動作との関係において有意な結果が見られると思います。



<図7:Iceo vs hFE (Temp: 21.9~22.6℃)>


<図8:Iceo vs 「真のhFE」(Temp: 21.9~22.6℃)>


なお図7,図8中には、当該条件(周囲温度:21.9~22.6℃)で実際のFuzzfaceの回路のQ1として組み込んだ(Q2:sample27)際の動作状況をマーカーの色で示しています。色の内訳は以下の通りです。
(2009.5.12追記:Iceoが大きくなるにつれて、特に高音弦のサスティンに影響が出ています。元のコメントはちょっと表現が極端で不適切だったので訂正)
 赤色:高音がブチブチ切れて楽器としてキビシイ。
  Q1:sample11 ⇒ 
 緑色:高音のサスティンが頼りない。
  Q1:sample12 ⇒ 
 青色:楽器としてまともに動作している。
  Q1:sample15 ⇒ 
 黒色:Sample27(Q2として使用のため、Q1としてのテストは行っていない)
(とりあえず上記においては音色面での評価はしていません)

概論2(机上回路解析)の結果よりIceoが0.27mAを超えた個体はQ1として使えないことが判明しておりますが、上記結果を見ると概ね回路解析の結果と符合しているように見えます。



<図9:VCE1 vs hFE (Q2:Sample27, Temp: 21.9~22.6℃)>



<図10:VCE1 vs 「真のhFE」(Q2:Sample27, Temp: 21.9~22.6℃)>


<図11:VCB1 vs hFE (Q2:Sample27, Temp: 21.9~22.6℃)>



<図12:VCB1 vs 「真のhFE」(Q2:Sample27, Temp: 21.9~22.6℃)>


やはりQ1のVCB(もしくはVCE)とhFE(および「真のhFE」)とは非常に高い負の相関を示しています(図9,図10)。この結果においては「真のhFE」よりhFEの方が相関が高くなっています(図11,図12)。ただマーカーの色で示される動作状況については、hFE, VCE および VCBとの関連は比較的薄いように見えます。

なおVCB1,VCE1ともに、Iceoとの間には特筆すべき相関はありませんでした。(not shown)



<図13:VCE2 vs hFE1 (Q2:Sample27)>



<図14:VCE2 vs 「真のhFE1」 (Q2:Sample27)>

今度はQ2をSample27に固定した条件において、Q1のhFEがVCE2に与える影響を測定します。Q1のhFEが上がれば上がるほどVCE1が上昇し、そのためQ2のエミッタの電位が上がってRE2の両端にかかる電位差が大きくなることによって、結果としてQ1のhFEとVCE2は正の相関を持つようになります(図13)。こちらも「真のhFE」との相関の方がより強い傾向が見られ、実測値と算出値とのずれについても、「真のhFE」基準の方がよりよく合っているように見えます(図14)。


<図15:VCE1 vs hFE2 (Q1:Sample17)>



<図16:VCE1 vs (real)hFE2 (Q1:Sample17)>

一方、Q2のhFEが回路動作に与える影響はQ1のhFEほどは大きくないようです。上記のようにQ1をSample17に固定した条件では、Q2のhFE(図9),「真のhFE」(図10)に因らずVCE1はほぼ5V強となっています。ただ、図9を注意深く観察すると、Q2の漏れ電流Iceoが大きい場合はほのかにVCE1が少なくなる傾向はありそうに見えます。



<図17:VCE2 vs hFE2 (Q1:Sample17)>



<図18:VCE2 vs (real)hFE2 (Q1:Sample17)>


またVCE2についても、Q2のhFE(図17),「真のhFE」(図18)に因らずほぼ5V弱となっています。こちらはQ2の漏れ電流Iceoとの有意な相関を見ることはできていません。


以上の測定結果より、次の結論が得られます。

○DC解析の結果は大雑把とはいえあながち間違ってもなさそう。
○hFEをベースに選別するより「真のhFE」をベースに選別した方が多少よいかも。少なくともIceoは測定しておいた方がよい。
○動作するかしないかという観点で見た場合、Q1のhFEは60-130(「真のhFE」ベースで50-80)ぐらいがベスト。
○Iceoの大小は、特に1段目のトランジスタの動作領域に直接影響を及ぼしているようである。Iceoは温度によって指数関数的に増加するので、温度の変動による動作への影響が相対的に大きい。
○動作するかしないかという観点で見た場合、Q2のhFEおよびIceoはQ1ほどクリティカルではない。


なお、以下は個人的な感想なのでエビデンスはないです。
○VCE1が700超になる組み合わせの音はあまり好きではなかった。

<1段目トランジスタのhFEが小さい場合に何が起こるか>
1段目にhFEが小さいトランジスタを使用して(ここでは2SB422の手持ちのロットを使用)一連の測定をして見ます。まずはIceoとhFEの関係を見ます。



<付図1:Iceo vs hFE(2SB422, Temp: 22.0~22.1℃)>


<付図2:Iceo vs 「真のhFE」(2SB422, Temp: 22.0~22.1℃)>

周囲温度:22.0~22.8℃での実際のFuzzfaceの回路のQ1として組み込んだ(Q2:sample45)際の動作状況をマーカーの色で示しています。色の内訳は以下の通りです。
(2009.5.12追記:hFEが小さくなるにつれて、全体のサスティンに影響が出ています。)
 赤色:音がブチブチ切れて楽器として使い物にならない。
  Q1:sample24 ⇒ 
 緑色:クリップがハードすぎて楽器としてどうかと思う。
  Q1:sample49 ⇒ 
 青色:楽器としてまともに動作している。       
  Q1:sample98 ⇒ 
 黒色:Sample45(Q2として使用のため、Q1としてのテストは行っていない)
(とりあえず上記においては音色面での評価はしていません)

概論2(机上回路解析)の結果よりhFEが30を下回る個体はQ1として使えないことが判明しておりますが、上記結果を見ると予想通りhFEが低いサンプル(Sample24,25,28)では増幅回路としてまともに動作していないように思われます。



<付図3:VCE1 vs hFE1(2SB422, Temp: 22.0~22.8℃)>



<付図4:VCE1 vs 「真のhFE1」(2SB422, Temp: 22.0~22.8℃)>



<付図5:VCE2 vs hFE1(2SB422, Temp: 22.0~22.8℃)>



<付図6:VCE2 vs 「真のhFE1」(2SB422, Temp: 22.0~22.8℃)>


VCE1およびVCE2とhFE1(および「真のhFE1」)との関連を見てみると、もう少し詳細な状況がわかります(付図3~6)。この結果よりhFEが低いサンプル(Sample24,25,28)ではVCE1, VCE2ともに(2007.10.04誤記訂正)VCE2が飽和領域に入ってしまい、信号がまともに増幅されていない様子がわかります。いくら歪みモノとはいえ、ある程度はリニアに増幅されないと楽器として使用に耐えないというごく当たり前のことが示されているように感じます。

投稿者 fff : April 10, 2007 12:30 PM
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