Fuzzface概論2(机上回路解析)

ここでは概論1とは別のアプローチによりゲルマTr VersionのFuzzfaceの動作に迫ろうと思います。ゲルマTrの回路を無理やりDC解析することにより回路の大まかな動作を考えます。


<図1:或るFuzzfaceの回路>

Fuzzfaceの回路定数は、とりあえず上図をベースに考えます。
なおRFとして100~150kΩ,RC2_1として470Ω or 330Ω等種々のVersionが存在するようです。RC2_1については、guitar magazine august2003, Vol.14, No.4のpp60-61の「SECRET SMILE」 というFuzzface特集を注意深く見ると概ねゲルマ=470Ω,シリコン=330Ωとなっているように見えますが、その他のVersionが存在しないことを保証できるものではありません。



<図2:DC解析用に書き直したFuzzfaceの回路図>

RE2に流れる電流は、Ie2-Ifなので、RE2の両端の電位差はRE2・(Ie2-Ib1)です。
Q1のコレクタとエミッタの電位差をVCE1,コレクタとベースの電位差をVCB1,ベースとエミッタの電位差をVBE1Q2のベースとエミッタの電位差をVBE2とすると、

 VCE1=VCB1+VBE1=VBE2+RE2・(Ie2-Ib1)

Q1,Q2はともにゲルマなので、VBE1≒VBE2と考えることができます。よって、

 VCB1≒RE2・(Ie2-Ib1)

おおざっぱに言えば、VCB1はRE2の両端の電圧とだいたい等しいと言えます。VCB1が小さくなりすぎるとQ1は飽和するので、Q1が飽和するかしないかは、RE2に流れる電流の大小によって決まる(RE2に流れる電流が少なくなるとより飽和に近くなる)ことがわかります。


次にRE2の両端の電位差VRE2を考えます。

 VRE2=RE2・(Ie2-Ib1)=Rf・Ib1+VBE1
 RE2・Ie2-VBE1=(Rf+RE2)・Ib1

 ∴ Ib1=RE2/(Rf+RE2)・Ie2-VBE1/(Rf+RE2)

ゲルマのVBEは0.1V程度なので、思い切って無視してしまうと、

 ∴ Ib1≒RE2/(Rf+RE2)・Ie2

実際にはRE2=1kΩ,Rf=100kΩなので、大体Ib1はIe2の1/100ぐらいと考えられます。



<図3:Q2の動作を理解するために心の眼で見たDC解析用Fuzzface回路図>

ここでQ2の動作について考えると、上図のようにQ2のベース電位はRC1による電圧降下によって決定されることがわかります。Vcc→RC1→Q2→RE2→GNDのラインを考えてみると、

 Vcc=RC1・(Ic1-Ib2)+VBE2+RE2・(Ie2-Ib1)
 Vcc-VBE2=RC1・(Ic1-Ib2)+RE2・(Ie2-Ib1)
 RE2・(Ie2-Ib1)=Vcc-VBE2-RC1・(Ic1-Ib2)

ie2≫Ib1, Ic1≫Ib2とすると、

 RE2・Ie2≒Vcc-VBE2-RC1・Ic1

Ib1≒RE2/(Rf+RE2)・Ie2, Ic1=hFE1・Ib1+Iceo1より(2009/5/16追記:ゲルマの場合使用条件によってはIceoが無視できないほど大きくなるため、考慮を追加)

 RE2・Ie2≒Vcc-VBE2-RC1・Ic1
 RE2・Ie2≒Vcc-VBE2-RC1・hFE1・(RE2/(Rf+RE2)・Ie2+Iceo1)
 RE2・Ie2≒Vcc-VBE2-RC1・hFE1/(Rf+RE2)・RE2・Ie2-RC1・Iceo1
 RE2・Ie2+RC1・hFE1/(Rf+RE2)・RE2・Ie2≒Vcc-VBE2-RC1・Iceo1
 RE2・Ie2(RC1・hFE1/(Rf+RE2)+1)≒Vcc-VBE2-RC1・Iceo1

 ∴ Ie2≒((Vcc-VBE2-RC1・Iceo1)/RE2)/(RC1・hFE1/(Rf+RE2)+1)

VBE1=VBE2=0.1Vとして具体的な定数を代入してみると、

 Ie2≒((9-0.1-33k・Iceo1)/1k)/(33k・hFE1/(100k+1k)+1)
=(0.0089-33・Iceo1)/(33/101・hFE1+1)
=(0.0089-33・Iceo1)・(101/33)/(hFE1+101/33)
=(0.0272-101・Iceo1)/(hFE1+3.06)

またVCB1≒RE2・(Ie2-Ib1) , Ie2≫Ib1より、

 VCB1≒RE2・(Ie2-Ib1)≒RE2・Ie2
 VCB1≒1k・(0.0272-101・Iceo1)/(hFE1+3.06)

 ∴VCB1≒(27.2-101k・Iceo1)/(hFE1+3.06)

この式より、hFE1が大きくなればなるほどVCB1は小さくなります。
(hFEとIceoは正の相関があり、かつIceoの増大はhFEの増大の効果を阻害しない)
そしてVCE(=VCB+VBE)が飽和電圧を下回ると、Q1が飽和してマトモな音が出なくなります。

次にQ1のコレクタ電位(=Q2のベース電位)を考えます。前述のようにQ2のベース電位はRC1を流れる電流によって一意的に決まり、

 Vcc-VCE1=RC1・(Ic1-Ib2)

Ic1≫Ib2 より、

 Vcc-VCE1≒RC1・Ic1
 Vcc-VCB1-VBE1≒RC1・Ic1

 ∴VCB1≒Vcc-VBE1-RC1・Ic1

仮にVCB1がゼロになったとすると、Ic1は

 Vcc-VBE1-RC1・Ic1=0
 Vcc-VBE1=RC1・Ic1
 Ic1=(Vcc-VBE1)/RC1

ゲルマTrの特性よりVBE1≒-0.1Vなので、Vcc=-9V, RC1=33kΩ, Ic1=hFE1・Ib1+Iceo1より(2009/5/16追記:ゲルマの場合使用条件によってはIceoが無視できないほど大きくなるため、考慮を追加)

 Ic1=hFE1・Ib1+Iceo1=8.9V/33kΩ≒0.27mA

つまり、Ic1=hFE1・Ib1+Iceo1<0.27mAということになります。概論1の結果より周囲温度が同等ならばVceの大小にかかわらずIceoが同程度となることが判明しているので、少なくともQ1についてはIceoが0.27mAを超える個体は使用できないことがわかります。


またQ2のVCE2を考えると、Ie2≒Ic2より、

 VCE2=Vcc-RC2・Ic2-RE2・Ie2
 ∴VCE2=Vcc-(RC2+RE2)・Ie2

仮にVCB2がゼロになったとすると、VCE2=VCB2+VBE2なので、

 VBE2=Vcc-(RC2+RE2)・Ie2
 Vcc-VBE2=(RC2+RE2)・Ie2
 ∴Ie2=(Vcc-VBE2)/(RC2+RE2)

ゲルマTrの特性よりVBE2≒-0.1Vなので、Vcc=-9V, RC2=8.2kΩ+470Ω=8.67kΩ, RE2=1kΩより、

 Ie2=8.9V/(8.67kΩ+1kΩ)≒0.92mA

よって、Ie2<0.92mAということになります。Q1の場合と同様に考えると、Q2についてはIceoが0.92mAを超える個体は使用できなさそうです。

また、VCE2=Vcc-(RC2+RE2)・Ie2, Ie2≒(0.0272-101・Iceo1)/(hFE1+3.06) および Vcc=-9V,RC2=8.2kΩ+470Ω=8.67kΩ, RE2=1kΩより、

 VCE2=Vcc-(RC2+RE2)・(0.0272-101・Iceo1)/(hFE1+3.06)
 VCE2=9-(8670+1000)・(0.0272-101・Iceo1)/(hFE1+3.06)
 ∴VCE2=9-(263-977k・Iceo1)/(hFE1+3.06)

VCE2=VCB2+VBE2 かつ ゲルマTrの特性よりVBE2≒0.1Vなので、

 VCE2=VCB2+VBE2=9-(263-977k・Iceo1)/(hFE1+3.06)
 VCB2≒8.9-(263-977k・Iceo1)/(hFE1+3.06)

上記の結果より、hFE1が減少するとVCB2が減少して飽和に近づくことが判明します。
仮にVCB2がゼロになったとすると、

 8.9≒(263-977k・Iceo1)/(hFE1+3.06)
 hFE+3.06≒(263-977k・Iceo1)/8.9
 ∴hFE1≒26.5-110k・Iceo1

hFE1が小さい個体は概ねIceoも小さいことを考慮してIceo1を無視すると、

 ∴hFE1≒26.5

以上より、少なくともhFE1は概ね30程度以上はないとQ2が飽和します。

これまでの解析結果を定性的/定量的にまとめてみる。(2009/5/16記載書き直し)
1.VCB1≒RE2・(Ie2-Ib1),Ie2≫Ib1よりVCB1はRE2の両端の電圧とだいたい等しくなるように平衡し、またVCB1はIe2に概ね依存する。
2.Ie2≒(0.0272-101・Iceo1)/(hFE1+3.06), Ie2≒Ic2より、Ie2 および Ic2はhFE1が小さい個体では相対的に大きくなる。
3.VCE2=Vcc-(RC2+RE2)・Ie2より、Ie2(および Ic2)が増大するとRC2とRE2に流れる電流が増えることからそれぞれの両端の電圧も大きくなるためVCE2が圧迫され飽和状態に近づく。左記結果より少なくともhFE1は概ね30程度以上はないとQ2が飽和する。
5.逆にVCB1≒(27.2-101k・Iceo1)/(hFE1+3.06)より、hFE1が増大するとVCB1は減少して飽和状態に近づく。
6.Ic1=hFE1・Ib1+Iceo1=8.9V/33kΩ≒0.27mAより概ねIceo1が0.27mAを超えるとVCE1が圧迫されQ1が飽和する。ゲルマの場合20℃あたりでIceoが0.2mA程度あることも(特に電力増幅段の石の場合)少なくないので、特にQ1についてはゲルマTrのIceoの指数関数的温度特性も考慮するとそれなりに厳しい選別が必要となることがわかる。
7.3,5および6の結果より、Q1のhFEおよびIceoが外気温により大きく増減することが、ゲルマ版Fuzzfaceの本質的な不安定さの原因であると考えられる。一方、Q1に比してQ2のhFEおよびIceoは回路動作の面では大勢に影響を与えていない。

投稿者 fff : April 10, 2007 01:40 PM
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