Fuzzface概論5(温度変化考察)

前の記事が雑多な情報の羅列っぽくなってて気に入らないので
ちょっと再構成を試みます。すいません。

【Q1:ゲルマTr版Fuzzfaceはなぜ周囲温度の変化に弱いのか】


<図1:ゲルマニウムトランジスタにおけるVce-Ic図>

A1:ゲルマニウムトランジスタの動作において、周囲温度が上昇した場合にはIceoとhFEが増大します(Fuzzface概論1:ゲルマTrの温度変化に対する特性(Iceo, hFE)変化の項参照)。図1で示すように、IceoはゲルマTrの場合比較的大きく、 かつ温度上昇に伴いIceoは指数関数的に増大し、hFEは比例的に増大します。正弦波入力時の1石エミッタ接地増幅による出力を図2に模式的に例示してみます。

<図2:動作点Bにおける波形のつぶれ方(例)>

Iceoが実線→点線のように増加すると、図1の負荷線上の動作領域(背景が白い部分)と遮断領域(背景が黄色い部分)との境界Aが①→のように移動して動作領域が狭くなります(図3)。

<図3:動作点BにおいてIceoが①→のように増大した際の波形のつぶれ方(例)>

また、hFEの増大により、図1中の動作点Bが②→のように移動します(図4)。

<図4:動作点Bが②→のように移動した際の波形のつぶれ方(例)>

このとき、Iceoの増大によりAが飽和領域(背景が緑の部分)との境界Cに達すると動作領域がまったくなくなってしまいます(not shown)し、また、hFEの増大によりBが飽和領域に入るとAB級どころかB級増幅すらしなくなります(図5)。

<図5:動作点が飽和領域を超えた際の波形のつぶれ方(例)>

ただ、前述のとおり温度上昇による影響はhFEよりIceoの方がはるかに大きく、特にFuzzfaceの1段目のようにコレクタ電流のオーダーがIceoに近い場合にはIceoの増大による動作領域の減少の方が、(動作する/しないの点では)より支配的だとは言えると思います。
(ゲルマTrのIceoの大きさを鑑みると、個人的にはFuzzfaceのコレクタ抵抗の大きさ(33kΩ)は疑問です。Tonebenderのようにもう少しこのコレクタ抵抗が小さければ(10kΩ)、使えるトランジスタの幅がかなり広がるように思うのですが)

上記結果をを踏まえて、参考までにFuzzface回路全体における正弦波入力に対するクリップの概要を模式的に示してみます(図6ー 図8)。図6は1段目および2段目のトランジスタの動作点がともに動作領域にある場合、図7は1段目のトランジスタが飽和している場合、そして図8は2段目のトランジスタが飽和している場合 を示したものです。

前述のように、図7の1段目トランジスタの飽和は温度上昇により1段目トランジスタのhFEが著しく増大した(もしくはもともと高いhFEのトランジスタを使用した)場合に発生し、また図8の2段目トランジスタの飽和は温度下降により1段目トランジスタのhFEが著しく下降した(もしくはもともとhFEが低いトランジスタを使用した)場合に起こります。


<図6:Fuzzfaceにおいて1段目および2段目のトランジスタがともに動作領域にある場合の波形クリップの様子>


<図7:Fuzzfaceにおいて1段目のトランジスタが飽和領域にある場合の波形クリップの様子>


<図8:Fuzzfaceにおいて2段目のトランジスタが飽和領域にある場合の波形クリップの様子>

図8において1段目トランジスタの波形の中心を図6、図7における波形の中心に比べて上側にシフトさせて描画している理由は、2段目トランジスタが飽和するような状況では(飽和しない状況に比べて)1段目のトランジスタが飽和から比較的遠い状態で動作していることによるものです。
(詳細はFuzzface概論3(測定結果)の<1段目トランジスタのhFEが小さい場合に何が起こるか>における付図3−付図6を参照)


実際には上記に加えて入力のカップリングコンデンサ(2.2μF)と入力インピーダンス(ほぼ1段目トランジスタのhieのオーダーなので1〜数kΩ)により形成されるハイパスフィルタにより入力前に数十Hz以下の低域がカットされ、トランジスタ自体の高域特性の悪さにより十数kHz以上の高域がカットされ(波形の平らな部分が右肩下がりになる)、さらに出力のカップリングコンデンサ(0.01μF)と次につなぐ機器の入力インピーダンスにより形成されるハイパスフィルタにより低域がカットされるはずです。


現在Fuzzfaceをコピーしようとする場合には、回路定数を変えずにバカ正直に作ってトランジスタを選別しまくるよりは、持っているトランジスタに合わせてコレクタ抵抗を調整するか、もしくは下図9のようにコレクタ抵抗を可変(図中赤で示すように固定抵抗(RC1:10kΩぐらい)と可変抵抗(VR3:20kΩぐらい)を直列につなぐ。RC1の固定抵抗を減らし過ぎると抵抗値を下げた時に電流が流れ過ぎて可変抵抗が焼けるのでNG)にするのがいいと思います。

Fuzzface_MOD.gif
<図9:バイアスを調整できるように少しだけ改良したFuzzfaceの回路図>

この部分を可変抵抗化しておくと周囲温度が変化した時にバイアスのセッティングを調整できるので多少便利かもしれません。ただその場合、可変抵抗をひねった時にガリガリ言うようになります(どこかの自作記事みたいに)が、その辺は確信犯なので許してください。

もう少し回路を複雑にして良いのであれば、こちらのFuzzface概論X(結論)の回路をおすすめできると思います。ゲルマトランジスタ自体にIcboの変化を補償させているので、hFEに対する補償までは対応できていないものの、図9の回路よりは温度変化に強いはずです。できれば真冬の野外とかで使ってみて効果を試してみたいですね。


投稿者 fff : May 14, 2009 12:43 AM