1巻線ラッチングリレー使用法

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コンパクトエフェクタのトゥルーバイパス化 および 自作アナログスイッチャーの切替に際して、リレーを使う方法をかなり以前から模索しておりましたが、リレー自体の電力消費の多さに二の足を踏んでおりました。(電池駆動が現実的でなくなる。しかも地球にやさしくない)

ある時、「ラッチングリレーを使うと電力消費が切り替え時だけで済む」という記事を見かけ、試してみようと思い立ったのがこの項の端緒です。


<ラッチングリレーとは>
ふつーのリレーは、コイル(電磁石)に電気を入れっぱなしにしないとSET状態を保持できません(電気を消すとバネかなんかの力でRESET状態に戻る)。SET状態を続けるためにコイルに電力をかけ続けなくてはいけない分、電力の消費がかさみます。

ところがラッチングリレーの場合は、1回コイルに(パルス状の)電気を入れると、電気を消した後も(永久磁石かなんかの力で)その状態を保持します。SET状態を続けるためにコイルに電力をかけ続ける必要はなく、その分省電力であると言えます。

ラッチングリレーには、構造上1巻線型と2巻線型があります。1巻線型はコイルがひとつしかなく、コイルに正のパルスをかけたときにSET状態,負のパルスをかけたときにはRESET状態になります。
対して2巻線型はSET用およびRESET用のふたつのコイルがあります。SET用のコイルにパルスをかけたときにSET状態,RESET用のコイルにパルスをかけたときにはRESET状態になります。
(ここでは便宜上SET,RESETという表現をしておりますが、もちろん通常のON-ONスイッチと同様、2回路の切り替えもできます)

ただ、通電は切り替え時の一瞬のみ、という仕組み上、外部からの振動(たとえばライブの時にシールドを引っ張ってしまった、蹴っ飛ばしてしまった等)によりステータスが変わってしまうことが予想されます。どの程度振動に弱いかは、実装した後実際に使ってみて評価したいと思います。
→数年自作エフェクタ(OD-1改)に突っ込んでロードテスト(というほどのものでもないけど)をしましたが、特に反応が悪い印象はないです。また、誤って蹴ってしまってもスイッチを踏まない限りはリレーが切り替わることは滅多にないです。
切り替え損ねの頻度も少なく、切り替えができなくてもLED確認してもう一度踏めばいい話なので、あまり気になりませんでした。

ここでは、オムロンのHPに1巻線ラッチングリレーのドライブ回路が載っていたので、まずはそのまま利用させていただくこととします。
リレー 共通の注意事項 6.プリント基板用リレーに関して 6-10「1巻線ラッチングリレーの省消費電力ドライブ回路例」 参照。
(参考:初出は過去のオムロンの特許(特開昭62-055826、現在は特許満了))

<上の回路の説明>
最も手軽に入手できたという理由で、松下電工の1巻線ラッチングリレーATQ219(5V)を使用しました。オムロンならばG5AU-234PHになります。(いずれも動作は確認済ですが、最適な回路定数は若干異なる可能性あり)
リレーが5V用ですが、D1での電圧降下を考慮してここでは6Vの三端子レギュレータを使いました。きっちり電圧降下分だけ補償するならば、5V三端子レギュレータ+ダイオードでのグラウンド嵩上げでも大丈夫です。

R1,C2はチャタリング防止用です。スイッチにcarlingのモメンタリSWCarling110-PMを使った場合には、C2の値を0.1μFにした方がよいです。Bossのエフェクタに使用されているような軽量級(?)スイッチの場合は、0.01μFぐらいの方がよさそうです。この辺は実際のスイッチの特性に合わせて現物合わせ的に決定する必要がありそうです。
T-Flipflopはここでは4027(JK-Flipflop)を使って実現しましたが、4013(D-Flipflop)を使っても実現できるそうです。ただいずれにせよ2回路あるうちの片方しか使わないので不経済(?)です。RohmのBA634という専用ICは1回路T-Flipflopなのでエフェクタに内蔵する場合等スペースファクターが重視される場合には使い勝手がよさそうです。

スイッチを踏むごとにT-Flipflopにより出力信号が0→1→0→・・・と切り替わります。T-Flipflopの出力そのままではリレーを駆動できないので、間にBufferをはさみます。省スペースのためここではデジタルトランジスタを使用しています。
(実はこのBufferで信号が反転するのですが、今回はとにかくリレーが切り替わればよいので無問題とします)。

Relay Drive Moduleで重要なのはR3とC3の定数です(図中赤色の部分)。
D1での電圧降下を考慮した上記条件では、C3が33μFでもなんとか動きましたが、47-100μFくらいが無難と思います。
(D1での電圧降下を考慮しない場合、リレーにかかる電圧が4.5V程度になってしまうため、リレーの個体によってはC3が220μF程度必要になったケースもありました。)

また、R3の抵抗値が低いと、待機時の消費電流が増えます。動作に差し障りのない範囲でなるべく抵抗直を高くしたいところです。R3=27KΩまではギリ動きはしましたが、多少の余裕を見て今回は15kΩとしています。

Q3についてですが、2SC1815のランクYを使ったところ(hFE=135程度)C3の容量が100μFでは連続操作に耐えませんでした。2SC1345のランクF(hFE600-1200)に差し替えたところ、ストレスなく操作できるようになりました。Q3についてはhFEが高めのトランジスタを使用した方が安全と思います。

消費電力、といえば、LEDにつながるR6はもう少し高抵抗にすべきでしょう。LED光らせるのはエフェクタの主目的ではないので。

Relay Drive Moduleの動作機序は、切り替え時にC3への充放電によってパルスが生成すること、およびパルスによってQ3が一瞬ONになることを利用したものと思います。(詳しくは前述の特許参照)

個人的な感傷ではありますが、BOSSのエフェクターについて、トゥルーバイパスのためにあの筐体に機械式スイッチを無理やり組み込むのは見ててなんか痛いので、筐体およびスイッチはそのままでラッチングリレーを使ったトゥルーバイパスを組み込んだりした方がスマートな気がするのですが如何。

投稿者 fff : November 21, 2020 12:53 AM
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